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福岡高等裁判所 昭和24年(ネ)283号 判決

控訴人原告 武石政右衞門

被控訴人被告 福岡県知事

一、主  文

本件控訴はこれを棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

二、控訴の趣旨

原判決を取消す。被控訴人が昭和二十三年十二月十日爲した福岡縣築紫郡二日市町武藏字池上六百三十二番地田三反六畝二十三歩、同所六百三十一番地田十八歩についての控訴人より訴外小作人山田利藏に対する賃貸借解約不許可決定は、これを取消す。被控訴人は右解約を許可せよ。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。

三、事  実

当事者双方の事実上の陳述及び証拠の提出認否は、控訴代理人において、本件農地についてさきに福岡縣築紫郡二日市町農地委員会において買收計画を定め、昭和二十二年十二月二日福岡縣農地委員会の承認を経て昭和二十四年二月七日福岡縣知事から控訴人に対して買收令書(買收の時期昭和二十二年十二月二日)の交付のあつた事実は、これを認める。」と述べた外は、いずれも原判決書当該摘示と同一であるから、これをここに引用する。

四、理  由

控訴人の所有であつた本件農地につき、控訴人が昭和二十三年四月十五日被控訴人に対し、訴外山田利藏との間の賃貸借解約許可申請を爲し、被控訴人が同年十二月十日右解約不許可の決定を爲した事実は、当事者間に爭がないけれども、本件農地についてはさきに福岡縣築紫郡二日市町農地委員会において買收計画を定め、昭和二十二年十二月二日福岡縣農地委員会の承認を経て、昭和二十四年三月七日福岡縣知事から控訴人に対し買收令書(買收の時期昭和二十二年十二月二日)の交付のあつたことの当事者間に爭のない事実によれば、右買收令書の交付による買收処分が当然無効であり、もしくは取消されない限り買收令書に記載した右昭和二十二年十二月二日の買收の時期に、右農地の所有権は政府がこれを取得し、該農地に関する権利は消滅したものといわなければならないから、控訴人はも早や被控訴人の前記解約不許可処分に対し、その取消変更を求めるに由がなろものと断ぜざるを得ない。

よつて、控訴人の本訴請求を排斥した原判決は相当であるから、民事訴訟法第三百八十四條第八十九條第九十五條を適用して、主文のように判決する。

(裁判官 小野謙次郎 桑原国朝 森田直記)

原審判決の主文および事実

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は被告が原告及び訴外山田利藏間の福岡縣築紫郡二日市町武藏字池上六百三十二番地田三反六畝二十三歩及び同所六百三十一番地田十八歩の賃貸借契約につき昭和二十三年十二月十日爲した解約不許可の処分を取消す。被告は右解約を許可しなければならない。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求めその請求原因として、請求の趣旨記載の本件農地は原告の所有で原告が昭和二十一年六月十五日特に一ケ年という約束で訴外山田利藏に賃貸小作させていたものであるが、その賃貸期間も経過したので、原告から被告に対し右小作地引上方につき許可を求めたところ、被告は意外にも昭和二十三年十二月十日これを許可しない旨の処分を爲し原告は同月三十日その旨の通知を受けた。然しながら原告は自作農として充分な経営能力を持つており又農機具その他の施設の備えもあつて本件小作地は寧ろ原告において耕作した方が遙かにその生産力の増大を期待し得ること明であり、而も本件小作地を引上げても小作人たる前記山田利藏方は他に收入もあつて、その生活が著しく困難になるとも考えられないから本件小作地引上を許可しない旨の被告の処分は明に違法たるを免れない。よつて右処分の取消と共に解約の許可を求めるため本訴請求に及んだと述べた。

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め答弁として原告から被告に対し本件小作地の引上方許可申請のあつたことは認めるがその他の事実はこれを爭う、即ち本件小作地については既に福岡縣築紫郡二日市農地委員会によつて買收計画がたてられ昭和二十二年十二月二日福岡縣農地委員会の承認を経て昭和二十四年三月七日福岡縣知事から買收令書の交付による買收の意思表示が爲されたから、これによつて本件小作地は右買收令書に記載されている買收期日即ち昭和二十二年十二月二日国家においてその所有権を取得し原告においてその所有権を失つた訳である。從つて原告は最早本件小作地引上の許可申請を爲し得ざるものと謂うべく原告の本訴請求は既にこの点において失当である。又実体的に原告の本訴小作地引上の当否について観るもその理由なきこと明白なりと謂はざるを得ない。なるほど原告は全ての農機具、役蓄を所有してはいるけれども、実際の耕作は殆んど全部が雇傭人委せであつて自ら汗して耕作を営む訳ではないのであるから、原告の家族では現在の耕作面積一町五反歩で充分であり、それ以上の自作能力はないものと認めざるを得ないのみならず、本件の小作人たる山田利藏は家族十一名を擁し現在本件小作地を含めて僅か四反九畝歩の田畑を耕作しているに過ぎず若し本件小作地を引上げられたならば僅か一反歩程度の耕作面積となり役畜を備える同人の農業経営に一大支障を來し、その生活に重大な影響を與えること明白である。一方原告は前記の如く現在一町五反歩を自作し而も多数の貸地貸家を所有し、金融業を経営し上流の生活を営んでいるのであるから本件小作地を引上げてこれを自作しなければならない何等の理田も存しない。而して原告は請求の趣旨において被告は本件賃貸借契約の解約を許可しなければならぬ旨請求しているが、これは裁判所に対て行政廳に対する積極的な処分を爲すべき旨の命令を求めるもので、行政権を侵害し三権分立の原則に反するものであるから到底認容せらるべきでないと述べた。(立証省略)

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